小麦粉製品のパンやパスタ、うどんは食べて健康に良い食品なのか、
グルテンフリーは本当に必要なのかを考察します。
この記事は医学的な研究よりむしろ、人類史・歴史的蓄積からの考察を重視します。故に論文というより論理的思考に基づくエッセイであることを承知の上、ご覧ください。
同じ切り口で睡眠について書いた記事もございます。
結論
小麦の摂取には千年単位の歴史があるから、セリアック病のような例外を除いて過食しなければ問題は少ない。
しかし、小麦粉それ自体に栄養は乏しいから積極的に食べるべきとは言えない。
小麦はパレオか?
私の食事を選ぶときのスタンスとして、一万年より前の狩猟採集時代のスタイルを踏襲すること。
百年、千年単位で存在する食材を組み合わせて調理することが基本。パッケージされた加工食品は無し。
「パレオ式ダイエット」とは英語の「Paleolithic diet」に由来しており、日本語では「旧石器時代の食事」という意味。
そこで、「小麦粉は『パレオ』か?」という問題が出てくる。
小麦の栽培が始まったのは早くて1万5千年前、本格的には5千年前ほどと言われている。
日本でも小麦の伝来は弥生時代(約2千年前)と言われる。
確かに農業が始まる前の狩猟採集社会では、少なくとも主食になるほどの量の小麦は摂取していなかった。
すなわち手放しに小麦を食べていいとは判断できず検討する必要がある。
小麦それ自体について
グルテンに対する懸念
『「腸の力」であなたは変わる』という本の主張を要約すると、
グルテン(小麦に固有のタンパク質)が腸壁の透過性を高め、本来入るべきではない物質が血流に入り込み、身体中で炎症を起こして精神病を含めた様々な不調を引き起こしている。
改善するにはグルテンはじめ果糖など腸内細菌に悪影響のある食べ物を排除し、発酵食品や食物繊維など腸内環境を整えるものを積極的に食べよう。
という内容で、グルテンは’’絶対悪’’として槍玉に上げられている。
本書ではグルテン摂取を止めて明確な治療法のない自閉症やチック症などが治った事例が紹介されている。
しかし、私が疑問に思ったのは「グルテンの排除だけをコントロールした事例がないということ。普段の食事からグルテンを排除したら、必然的に過剰な糖質や加工食品の摂取が減り、食事に含まれる栄養の量は相対的に増加するという要因が残る。
つまり小麦製品を排除したら勝手に健康的な食生活に改善されただけであって、「小麦それ自体が問題だったか」は裏付けられていない。
(著者も低炭水化物・高脂肪の食事は推奨している。)
全世界の小麦の消費量・消費人口、歴史を考慮すると、小麦を身体の不調の単一原因として取り上げるのは無理があるだろう。
私の経験上、一度に大量にパンやパスタを食べたらインスリンショックで体がだるくなることは確かにある。しかしグルテンフリーで1週間程度過ごして体調がさらに良くなるということもなく、パスタ100g程度を食べたからといってすぐに体調が悪化したかというとそんなこともない。
少なくとも、体質的に過敏でない限りすぐに体に悪影響が出るものではない、というのが客観的な判断としてふさわしいと思う。
しかし、これはもともと健康体の人の場合を想定しているので、著者の言うように慢性的に体の不調があり腸内細菌の状態が悪い可能性があるなら、ぜひグルテンフリーは実践すべきだと私も思う。
腸内細菌の話
本書では健康な他人の便を患者の直腸に移植するFMT(Fecal Microbiota Transplantation)という治療法が紹介されており、何年も治らなかった難病が明らかに改善するなど、腸内細菌と精神の関連を証明する事例が書かれている。
グルテンの悪影響に関しては誇張気味であるにしても、腸内細菌がセロトニン生成の大部分を占めるなど体調に影響を及ぼすことは注目に値する。
腸は進化の観点から見ると脳よりも歴史が古く、脳と腸をつなぐ迷走神経を通して相互作用しあっている。
この視点を持つと、食欲が我慢できないのは本人の意思の問題ではなく、エネルギー量の多い食べ物を好む腸内細菌(フィルミクテス門)の割合が高くなると、本人が無意識にカロリーの高い食べ物を欲するように行動するという説明も可能になる。
食事だけでなく、ストレスによりコルチゾールが過剰に分泌されると腸内細菌のバランスが崩れて体調が悪化しさらにストレスがかかるという悪循環に陥ると示唆されている。当然のことながらストレス管理も食事と同様に重要。
糖質について
糖質制限・ケトジェニックについて
糖質制限やケトジェニックと呼ばれる食事スタイルがある。
糖質というのは簡単に言えば、ブドウ糖(=グルコース)をはじめとした炭水化物の一種の総称。
ブドウ糖が重合したデンプン、果糖や乳糖、砂糖=ショ糖(ブドウ糖+果糖)も含まれる。
ケトジェニックは「(ブドウ糖をエネルギー源とする)糖代謝から、(β-ヒドロキシ酪酸などケトン体をエネルギー源とする)脂肪酸代謝をメインに切り替えて生きよう」というもの。
糖質制限はこれを利用して脂肪を分解し肥満を解消しましょうという食事法。
(※正確には糖摂取をしている人も全てをブドウ糖でまかなっているわけではなく脂肪酸代謝も常に働いている。)
糖質制限を推奨する本『炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】~植物vs.ヒトの全人類史~』によれば、糖質をエネルギー源とする食事はせいぜい農業が始まった約一万年前以降の話で、一般人が満腹になれる量の糖質を摂取できるようになったのはここ数十年の話。
「血糖値が急上昇する」こと自体が異常な状況であって、糖質制限は単なるダイエットではなく、人間に本来適応した食事スタイルである、という主張。これはパレオ式の思想と合致する。
この本は人類誕生のはるか前、真核生物の時代から地球史のレベルで考察を展開する、とても好奇心がくすぐられる本。読み物として非常に面白いのでオススメです。
検討
ケトン体と呼ばれる脂肪酸代謝によるエネルギー源は出るまでに数日かかるため、糖代謝で生活していた人がいきなり切り替えると低血糖などの支障が出る可能性がある。糖質制限は健康に悪いという研究が存在するのもこれに関係したものだと推測できる。
しかし狩猟採集時代に潤沢な量の糖質摂取はしていなかったのは確かだから、健康に悪いというのもまた違うのではないか?
軽い断食状態に持っていき、ブドウ糖の貯蔵庫であるグリコーゲンを使い切り、いよいよ脂肪が分解されてケトン体が出てくるという移行をスムーズにさえできればケトジェニックも悪いものではないはずである。
結論としては、糖質摂取を極限まで抑える(一般的に)’極端’な食事は、人類史の観点からは問題ない。
一方で、人間の機能として血糖値を下げるインスリンは存在しており、筋肉と肝臓に約400g分のグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵庫)が溜められる機能も備わっている。だからある程度の量の糖質摂取は人間に適応的で、’’自然な’’行為の範疇ではないだろうか。
しかし、世の中の安価な外食などでは、糖質過剰になりがちであることは確かであり、血糖値の乱高下により糖質に対する中毒性を起こしたり、体調にも直結する。
私も過剰な糖質摂取が体に害であることは疑いの余地がないと考えている。(成人男性で250g/日くらいだろうか)
実際、私も短期間の糖質制限をしてみたことはあるのだが、スポーツをやっているため両立が難しく、月単位の長期間の実験が出来ていない。そのため食事を完全にコントロールできる状況になればぜひ実験してみたいと思っている。
総括:食べる/食べないより量の方が重要
当然ながら小麦を食べていいと言っても、コンビニの菓子パンを食べていいことにはならない。
「小麦」と一言で言っても、乾燥パスタか、パン屋のバゲットなのか、袋詰めされた菓子パンなのかで全く事情は変わってくる。砂糖や脂質、添加物がたっぷりの加工品はもちろん問題外。
原始的なスタイルを逸脱していないのは、
原材料がデュラム小麦のみの乾燥パスタ、小麦粉・水・食塩・パン酵母のみのバゲット(フランスパン)などハード系のパン。
許容範囲はクロワッサンなど脂分にバターのみを使ったパン辺りだろう。
私も数ヶ月に一度はパスタを買って作ることもありますし、ナポリ・ピッツァは好物なのでやはり数ヶ月に一回は食べたくなります。伝統的なピザであれば、懸念点があるとすればオイルも多いため食べる量に気をつけるくらいで問題ないと思っています。何にせよ美味しい。(宅配ピザは別物なのでNG。)
要は、食べる・食べないのゼロイチ情報よりも、メリット・デメリットを考慮して脂肪として蓄積されるほど過剰な量を取らないことがはるかに重要。
メリット:安い。美味い。
デメリット:依存性あり。栄養が乏しい。腸内細菌の環境が悪い人には問題あり。
毎日食べていると糖質依存になりがちなので実質的には主食にするのは控えてたまに食べるくらいが丁度良いという所に落ち着くでしょう。
おまけ:全粒粉パスタってどう?
全粒粉とは、外皮(ふすま)を取り除かず一緒に製粉したもの。白米↔︎玄米と小麦粉↔︎全粒粉がちょうど同じ関係。
パレオ式の観点からは全粒粉の方が自然であり栄養も多いのでふさわしい。
「pantanella パンタネッラ」という商品を食べてみたのだが、蕎麦のような風味があり、食感はざらっとしている。
私は、この蕎麦のような風味がイヤな雑味に感じられてあまり好きではなかった。喉越し的なものは従来のパスタの方が上。これを食べるなら美味しいディ・チェコのパスタで精神的に満足した方が良いなと思ってしまった。
お米でも「白米以外ありえない」という人がいるように、嗜好は人それぞれだろう。
私は発芽玄米が白米よりも好き。
発芽玄米に関しては、この記事の後半で触れています↓
玄米ほど普及していない辺りから察するにあまり万人ウケしないのかなと思いつつ、一つの商品だけで断定するのは良くないので、また気が向いたら次はアルチェネロ 有機全粒粉スパゲッティを試してみたいと思う。(その時はブログに追記をすると思います。)
※2021.07.30追記
アルチェネロ 有機全粒粉スパゲッティを買ったので早速シンプルにペペロンチーノを作ってみた。
見た目はパンタネッラと変わらず。しかし味は明らかに違った。
蕎麦のような雑味はなく、食感も普通のパスタに近くツルツル。一般的なブロンズダイス製法のパスタと同じような食感。
これなら常食にも耐えるレベルの品質だと思う。
一つ疑問なのは、アルチェネロが雑味や食感の点で優れているのは、前に食べたパンタネッラに比べて、生産技術が優れていて品質が高いからかもしれないが、単純に全粒粉の使用割合が少ない、または全粒粉の精製度が高いからかもしれない。この点は調べてもはっきり分からなかった。でも、しっかり食物繊維は含まれているので、「美味しい」に越したことはないだろう。
この記事を読んでいただきありがとうございます。
健康は複雑すぎる問題であり、答えは人によって違います。
しかし、考え方を学ぶことは有益であると思います。
みなさまの生活が少しでも良くなれば幸いです。
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