【論文紹介】ケトン食と無酸素運動は両立可能か?|アスリートとケトジェニック【筋トレ】【糖質制限】 | Minimal Health

【論文紹介】ケトン食と無酸素運動は両立可能か?

ケトジェニック 無酸素運動 論文 健康

以前、ケトジェニックになるまでの体調変化をまとめた記事を書きました。

記事の最後に「ケトン食で無酸素運動は可能なのか?」についての仮説を書きました。

ケトジェニックに移行した状態で、運動するごとに少量の糖質を摂取すれば、(無酸素(糖代謝)優位の瞬発系のスポーツやウェイトトレーニングに)「日常ではケトン体、運動時には糖代謝」という切り替えでうまく順応できる可能性があるのではないか

https://bio-stoic.com/ketogenic/#toc17

※自分の身体で実験・検証する予定でしたが、直近の緊急事態宣言につき運動頻度が低下して体力が落ちてしまっている為、この状態では「食事」という要素だけを抽出して検証することが難しいことに気が付きました。そのため普通の糖質ありの食事で一度体力を元の水準まで戻してから行うことにしました。上手くいけば今年中には再開できる予定です。

仮説を検証する上で、海外の論文を調査しましたので共有いたします。

’’ケトジェニック・糖質制限食に興味はあるけど、スポーツや筋トレに支障が出ないか心配’’という方へ参考になれば幸いです。

論点

無酸素運動の定義は「2分以内の高強度・低持続時間の運動」

一口に無酸素運動と言っても、ウェイトトレーニングで一回デッドリフトを上げる(1RM)数秒の運動ならATP-CP系(非乳酸系)で賄えると考えられるので、ケトジェニックに関係なくパフォーマンスが維持できることは理論的に予想がつきます。

しかし、陸上短距離の100m・200mなどの10〜20秒単位の無酸素運動は、約8秒のATP-CP系によるエネルギー供給後、一般的に解糖系(乳酸系)が亢進し、有酸素系も働く。そのため一般的な方法には、反復の無酸素運動をするアスリートには、運動2〜3時間前と運動後に炭水化物(糖質)を補給してグリコーゲンを貯めることが推奨されています。(※参照

つまり「8秒以上の継続的な高強度運動をケトジェニック状態で耐えうるのか」が論点になる。

結論

ケトン食と無酸素運動のパフォーマンスの関係を調べた研究は乏しいが、限られた研究結果を参照すると、3ヶ月程度の短期的なパフォーマンスは維持される(= 一般的な食事と比較して統計的に有意差がない

しかし、除脂肪体重の増加や一部の筋肥大メカニズムを妨げるなど悪影響が示唆されてもいるため、健康とパフォーマンスの両面を考慮するにはさらなる研究が必要

論文の採用基準

①1日のエネルギー摂取量のうち糖質が50g/日以下、または血中ケトン体濃度が0.5mmol/L以上

→ ゆるい糖質制限の食事ではケトン体は産出されないため不十分

研究期間が21日以上

→ ケトン体は通常数日から1週間ほどで出るが、実際エネルギー源として使われる代謝的な適応は3~4週間と以上かかるとする論文もある(※参考

十分にトレーニングを受けている男性または女性の参加者を対象とする

メタ的な論文①

参考文献:Impact Of Ketogenic Diet On Athletes: Current Insights (2019)

個々の論文を統合して効果を検討したのがメタ分析。

研究結果

筋力パフォーマンス
中程度(50-69% 1RM)から強い強度(70-84% 1RM*)
訓練を受けた体操選手とテコンドー選手において、KDを3~4週間継続しても、筋力持久力、パワーの低下は認められ

最大値に近い強度から最大値の強度(85% 1RM以上)
KDと組み合わせたレジスタンストレーニングを10~12週間実施したところ、トレーニングを積んだアスリートの1RMバックスクワット、ベンチプレス、クリーン、ジャーク、デッドリフトのパフォーマンスが維持された

・短時間のパフォーマンス
強烈な強度(64-90% VO2max**, 30秒以上)
レクリエーション活動を行っている持久系アスリートにおいて、CPT(critical power test)の完了に有益な効果が見られた

スプリント-近距離最大運動(91%VO2max以上、30秒未満)
また、6秒(SS)スプリントのパフォーマンスが向上し、スプリントのパフォーマンスは、12週間のKD後も低下しなかった

・体組成
筋肥大
トレーニングを受けたアスリートの調査では低下が見られず、レクリエーションでトレーニングを受けたアスリートの調査では低下が見られた

体脂肪率
トレーニングを受けたアスリートの体脂肪率は変化しませんでしたが、KDを摂取したレクリエーションでトレーニングを受けたアスリートの体脂肪率は低下した

*1RM:一回が限界で、連続で行うことができない負荷のこと
**VO2max:運動中に体が消費できる最大酸素量

結論と考察

・KDに適応しても中等度から高強度の運動は低下しない

・現在の証拠では、最大筋力の低下は認められない。1RMを休憩を挟みながら実施すれば、KDの摂取による筋力パフォーマンスの低下はないと考えられる

・スプリントに近い最大強度の運動を維持できることは注目に値するが、
プロのアスリートが対象の実験ではないこと、また、短時間の激しい運動やスプリント運動におけるKDの有益な効果は、KD群の体重減少が大きいため、体重減少が交絡変数となっている可能性が高い(→体重が減ることで、体重あたりの出力比が向上するという意味)など、解釈には検討が必要

・パフォーマンスと健康の両方に対応するために、この分野ではさらなる研究が必要である

メタ的な論文②

参考文献:Ketogenic Diet and Sport Performance(2020)

研究結果

・対象研究の食事介入の期間は6週間〜12週間

・KDの無酸素性パフォーマンスへの影響を評価した研究がいくつかあり、主にパワーや筋力のパラメータを評価した

⬇︎

・一般的に、KDを実施しても筋力やパワーの測定値で対照群との間に有意な差は見られなかった

・レジスタンストレーニング*による筋肥大がKDによって鈍化する可能性がある
 → LC/KD食が無酸素性パフォーマンスを高める有効な戦略ではないことを示唆

*筋肉に一定の負荷をかけて筋力を鍛えるトレーニング。チューブやダンベル、マシンなどを使う。ウェイトトレーニングも含む。

結論と考察

・調査した文献上では運動パフォーマンスを向上させる効果的な食事戦略としてKDを使用することを支持する文献はない。

・無酸素運動のパワーと強さを重視するアスリートにとって、KDはこれらのパフォーマンスに悪影響を与えることはありませんが望ましくない。除脂肪体重の減少や骨格筋肥大の抑制につながる可能性がある。

個々の研究結果

①クロスフィットとケトン食(12週間, n=7)

参考文献:The Three-Month Effects of a Ketogenic Diet on Body Composition, Blood Parameters, and Performance Metrics in CrossFit Trainees: A Pilot Study (2018)(原文はこちら

目的
地元のクロスフィット施設でレクリエーション・トレーニング(=プロではない)を行っている参加者を対象に,12週間のケトジェニック・ダイエット(KD)が体組成,代謝,およびパフォーマンス・パラメータに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした研究

被験者
n=7 (KD群), n=5(CTL群:コントロール群)

計測方法
試験前、2.5週目、12週目に無酸素性パフォーマンステストを実施し、試験前と12週目には、体組成、安静時エネルギー消費量(REE)、有酸素性能力の検査を行いました。

結論と考察
・REE、1回反復最大バックスクワット、400m走のタイム、VO2peakの変化はグループ間で同様であった。
クロスフィットトレーニングを行っている人に12週間のKDを実施すると、ウェイトリフティング、ランニング、有酸素運動のパフォーマンス指標に影響を与えることなく、全身の脂肪率が改善されることが示唆された。

・KDによる無酸素性および有酸素性パフォーマンスの向上は、今回の報告や他の出版物には見られなかったことから、実践者はパフォーマンスの向上よりも体組成の改善を求める場合に、この食事の実施を検討すべきである。

②筋力トレーニングとケトン食(8週間, n=10)

参考文献:Effects of a ketogenic diet on body composition and strength in trained women (2020)(原文はこちら

目的
8週間のレジスタンストレーニングプログラムに参加したトレーニング女性の体組成と筋力に対するKD(ケトジェニックダイエット)の効果を評価することを目的とした。

被験者
n=10 (KD群), n=11(CTL群,非KD)
全員筋力トレーニングを行っている女性

計測方法
体組成、バックスクワットとベンチプレス(BP)の最大反復回数(RM)で測定した筋力レベル、フォースプレート上で測定したカウンタームーブメントジャンプ(CMJ)など

結論と考察
KDでは脂肪量の有意な減少が認められたが、では認められなかった

・無脂肪量は、KD、非KDともに有意な変化は見られなかったが、絶対値の変化は非KDに有利であった

・KDではBPに有意な変化は見られなかったが、スクワットとCMJでは有意な変化が見られた
非KDではBP、スクワット、CMJで有意な増加が見られた

→ 結論として、 KDは脂肪量を減少させ、無脂肪量を維持するのに役立つが、無脂肪量を増加させるには最適ではないことが分かった

③筋力トレーニングとケトン食(11週間)

参考文献:Effects of Ketogenic Dieting on Body Composition, Strength, Power, and Hormonal Profiles in Resistance Training Men(2020)(原文はこちら)※要約(abstract)のみ

目的
ケトジェニックダイエットがレジスタンストレーニングを行う男性の体組成、筋力、パワー、ホルモンプロファイルに及ぼす影響の調査を目的とした。

被験者
n=25(KD群とWD群合計) ※WD(Western Diet:西洋食)
筋力トレーニングを行っている大学生の男性

計測方法
・1週目から10週目までKDまたは従来のWDに分け、10週目から11週目までは炭水化物を再導入しながら、レジスタンストレーニングプログラムに参加させた。
・0週目、10週目、11週目に体組成、筋力、パワー、血中脂質プロファイルを測定した。
・0週目と11週目には,包括的なメタボリックパネルとテストステロン値を測定した。

結論と考察
除脂肪体重は、10週目にKD群とWD群の両方で増加したが、KD群のみ10週目と11週目で増加が見られた

脂肪量はKD群とWD群の両方で減少した。

筋力とパワーはWD群とKD群で1週目から11週目まで同程度に増加した

総テストステロンは、KD食では0週目から11週目まで、WD食(-36ng-dl-1)に比べて有意に増加したが、インスリンは変化しなかった。

→ 結論として、KDはレジスタンストレーニングと組み合わせて使用することで、レジスタンストレーニングを行っている男性の体組成、パフォーマンス、ホルモンプロファイルに好ましい変化をもたらすことができる。

総括すると

ケトジェニックダイエットは有酸素・無酸素ともに、約3ヶ月までの短期〜中期間において、筋肉量や身体能力を維持できることが確認されているが、パフォーマンスの向上を積極的に支持する研究はない。

系統的レビューによるとあらゆる運動の形式の研究を全て含めて、全体的にケトン食と非ケトン食を比較すると身体パフォーマンスに正または負の影響も及ぼさないことが示唆されています。研究によって結果が一致しないため、原因として食事摂取期間、トレーニングの状態、テストの方法、性差など複数の要素が考えられています。

今後の展望として、3ヶ月を超える長期間の検証を経て筋肉における脂肪酸化の効率や適応度が向上して身体パフォーマンスが変化するかどうかや、食事以外の変数を排除したより精緻な研究が待たれます。

個人的な見解

ケトジェニックダイエットは、多量の糖質を摂取しない狩猟採集時代の食事に近く、ケトン体で代謝を賄うことは人間の身体に対して適合的であることは間違いないと考えています。

しかし、無酸素運動を含む瞬発的な高強度の運動には解糖系が使われやすいのは事実。

無酸素系運動のパフォーマンスに対して残された可能性は
→「無酸素系のスポーツにも代謝的な適応が可能
→「無酸素系のスポーツには人間の身体は適応的でなく、グリコーゲン由来のエネルギーでしか対応が困難」

→健康とパフォーマンスを両立する可能性のある折衷案が
ケトン体代謝に恒常性を持ちながら、運動時にグリコーゲンを貯めて二つのエンジンをスムーズに利用できる

というふうに考えています。いずれにせよ、さらなる検証が必要です。

コメント